鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「あのっ……社長、どこへ?」
「俺以外のやつに見られたくないだろ」
「……」

いえいえ、社長。
あなたにも、見られたくはありません。
けれど、交換条件を呑んで頂いたので、致し方なく……ですから。

結局、当初の納期には全て完了しきれず、できる限りの状態で対応に追われた。

システム部には三人のSE経験者が即座に派遣され、各部署にもゆとりのある依頼をするようにと指示が出されれた。
できるなら、もっと早くから対処してくれればいいのに。

ここ三日ほどは落ち着いた日常が訪れ、久々にネイルサロンにでも行こうかと思った矢先。
『今夜、時間を取れるよな』と、断る言葉も遮られたお誘いを受けた私は、こうして社長の車でどこだか分からぬ場所へと連行されている。

十八時半、少し前。
本当ならネイルサロンに予約を入れていた時間だ。
スマホを鞄から取り出し、ネットでキャンセルの手続きをする。

「彼氏か?」
「へ?」
「今、メール送ったんじゃないのか?」
「あ、……彼氏はいません。ネイルサロンを予約してたので、今キャンセルしたところです」
「へぇ~」

質問して来たのは社長なのに、キャンセルさせたことを悪びれる様子もなく。
栞那は少しばかりイラっとしてしまった。

それに、一日仕事をしたのだから、お腹だって空く。
空腹状態だから、尚のこと苛々が募り始めた。

「食べたい物はあるか?」
「え?」
「フレンチとイタリアンなら、どっちがいい」
「………イタッ…リアンっ」
「じゃあ、イタリアンにしよう」

心の中を見透かしているようで、焦って声が吃ってしまった。

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