鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
伊織行きつけのイタリアンレストランに連れて来られた栞那。
“イタリアン”と言っても、栞那がいつも食べているような店ではなく。
三ツ星レストランで腕をふるっていたシェフがつくる本格的なコース料理だ。
しかも、ビンテージワインまで出されてしまい、夢のような時間が流れる。
酸味がありながらもコクが際立ったワインを味わっていると、向かいの席から熱い視線が向けられていることに気付く。
しかも、一切ワインを口にしていないではないか。
「社長もお飲みになりませんか?」
「運転があるから」
「っ……」
「口に合うようだな」
「……はい、凄く」
「それは良かった」
「っっ」
不意打ちにも、栞那の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべた伊織。
美しいという言葉がぴったりなほど、伊織の微笑みは優美さを感じさせる。
社内では誰一人として、彼の笑顔を見たことがないと噂に聞いていたのに。
「次に食事する時は、成海の行きたい店にするから、事前に教えて欲しい」
「……次?」
「あぁ。次と言わず、次回からな」
「っ……」
そうだった。
社長との取引で、私はこの人の作品を試着するんだ。
部署の増員やフォローは仕事上の対応であって、当たり前なのかもしれない。
だとすると、この豪華な食事は……専属契約の報酬?
「こういう食事が、専属契約の報酬ですか?」
「う~ん、あながち間違いではないが、これも報酬の一部だ」
「一部?」
「必要なのであれば、ネイルサロンの費用も出してやるし、欲しい服があるなら買ってやる」
「はい?」
「要するに、俺の作品を着こなせる体になるなら、幾らだって叶えてやる。年俸は増やせないが、特別手当なら出してやるぞ」