鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「シャワー浴びるか?」
「ッ?!……浴びた方がいいのであれば」
「別にどちらでも構わないが、着替えるついでに浴びておけば、家に帰って楽だろ」
「………そうですね」
彼氏でもない男性の自宅に連れ込まれ、この後にその人物の前に下着姿になること前提でシャワーを浴びる。
これって、どう考えてもおかしくない?
超高級レジデンスのご自宅は、見るもの全てが別世界。
庶民が足を踏み入れてはいけない世界だということはひしひしと伝わって来る。
ドア一つとっても重厚感があって、飾り彫りやステンドグラス入りのドアはリゾートホテルでしか見たことがない。
浴室へと続く洗面室ですら、見たこと無いほどに煌びやかで。
どこからともなくいい香りが鼻腔を掠める。
間接照明が淡い光になって天井や足下を照らし、蛇口はピカピカに輝いていて。
置かれているタオルなんてふっかふかで、どこぞの王国のお姫様になったような気分になる。
「現実を見なくちゃ……」
騙されてはいけない。
だって私はこの後に、あの人の前でランジェリー姿にならなければならないのだから。
洗面台の上に置かれた段ボールの中にはたくさんのランジェリーが入っている。
サイズはどれも、lumièreよりワンサイズ上のもの。
本当に“目測”に狂いがないのだろうか?
箱の隣りに置かれたバスローブ。
滑らかな手触りのそれは、大人の女性の色気を付加してくれそうだ。
**
「寒くないか?」
「……はい」
素肌に下着を身につけ、その上にバスローブを羽織っただけ。
リビングでノートパソコンに向かう伊織の視線が、バスルームから出て来た栞那に向けられている。
細めの眼鏡をかけ、帰宅時のスーツ姿のままだ。
優雅に長い脚が組まれ、眼鏡越しの視線に栞那の胸がトクンと震えた。