鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
血管が浮き立つ手が、センターテーブルの上に置かれたクロッキー帳を手にした。
その動作一つとっても色気がある。
距離にして二メートルほど。
栞那はソファのすぐ脇に立ち尽くす。
「どうした?」
“脱がないのか?”と威圧される。
ここまで来て、何もせずに帰るわけにもいかない。
減るものじゃない。
つい半月前にもこの人の前で下着姿になったのだから。
ただ、あの時は上半身だけだった。
「上だけじゃ、ダメですか?」
「俺が“いい”と言うと思うか?」
「……いえ」
「フッ、分かってるなら、とっとと脱げ」
「っ……」
冷酷で鬼社長と言われる人物。
冗談が通じるような人じゃない。
栞那は腹をくくってバスローブの結び目を解いた。
ストンと床の上に落ちるバスローブ。
と同時に露わになった肌が視線に晒され、羞恥心でぎゅっと目を瞑った。
「ん、……悪くない。後ろを向け」
どんな視線を向けられているのか知ることすら恐怖で。
栞那は目を瞑ったままゆっくりとその場で回転するように踵を返した、その時。
「ぁっ……んっ」
足下のバスローブにスリッパが絡まり、体勢が崩れた。
「平気か?」
「……はい、すみませんっ」
伊織の長い腕が栞那の体を抱きかかえた。
「怪我をしたら仕事に支障を来す。とにかく、落ち着け」
「……はい」
不安な気持ちも羞恥心も理解した上でかけられた言葉。
足下のバスローブが片付けられ、何事もなかったように伊織は再びソファに腰を下ろした。
じーっと見つめたかと思えばクロッキー帳に視線を落とし、手を走らせる。
その後は次々と試着を繰り返し、その度に熱い視線が向けられた。