鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「お疲れさま」

温かいジャスミンティーが入ったカップが差し出された。

「ありがとうございます」

結局十着ほど試着した栞那は、バスローブ姿でカップを受け取った。

最初の数着は殆ど記憶にない。
ぎゅっと目を瞑っていたというのもある。
どんな顔して立てばいいのかすら分からず、ただただ早く終わって欲しいと願っていた。

けれど、下着姿だからと、別に変な気が起きるわけでもなく。
勝手に思い込んで考えを巡らせていたことすら恥ずかしいとさえ思えるほど、伊織の態度は完全にビジネスモードだった。

「試着して違和感のあったものとか、こういう風にして欲しいとかあったか?」
「……そうですね」

試着し終えたランジェリーの中から薄紫の上下を手にして、それを伊織の前に差し出す。

「この生地が一番ごわつきがありました。素肌に着けるものなので、刺繍や縫い目はもう少し丁寧な方がよいかと」
「ふむ……確かに」

つい先ほど栞那が試着したそれを手にした伊織。
指先で感触を確かめている。

本来なら、脱いだばかりの下着なのに……。

自分で差し出しておきながら、今さらながらに恥ずかしくなって来た。

「あのっ……着替えて来ますっ」
「あぁ、うん、どうぞ」

仕事モードの伊織は栞那に目もくれず、次々と製品を手にして質感を再確認していた。



「仕事だから」

着て来た服に着替え、鏡に映る自分に言い聞かせる。
別に他意があるわけじゃない。

あんなにもイケメンな男性に下着姿を見られたからといって、何かが起こるわけじゃないのに。

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