鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「ちっ、……近いですっ!」
「そうか?」
「……もう少し、離れて下さいっ」
「別に触れるわけじゃないんだから、これくらいいいだろ」

いつもはリビングのソファに優雅に足組して座っている伊織が、何故か今日は栞那の目の前にいる。
普段は二メートルほどの距離があるのに、今日はニ十センチあるかないか。
今にも鼻先が栞那のバストトップについてしまうんじゃないかと思うくらい近くて。
細めの眼鏡越しに向けられる視線に、栞那の心臓が煩いほどに暴れている。

伊織の温かい吐息が栞那の胸元にかかり、否応なしに体が小刻みに震え出した。

「離れて見た感じと間近で見る感じはだいぶ違うな」

熱い視線が注がれていても、それはあくまでも仕事上。
当然、栞那を“女性”として熱く求めているわけではない。

伊織は刺繡部分の映え方を見極めていた。
自分がデザインしたものであっても、いざ身に着けた状態での見栄えはやはりだいぶ違う。

ソファの横に立ち尽くす栞那を見つめていた伊織は、何かを思いついたのか、栞那の手首を掴んだ。

「ちょっとここに、座ってみろ」
「っ……」

有無を言わさず下着姿のままソファに座らされた、次の瞬間。

「っ…………んッ?!」

何故だかは分からない。
栞那の視界がぐらっと揺らいだかと思えば、本革レザーのソファに押し倒されていた。

視界に映るのは、さらりとした髪から覗く細い眼鏡と、その眼鏡越しの熱い視線。
薄い唇の端が僅かに持ち上がり、栞那の肩にのしかかる重さに栞那の鼓動は激しく鳴り響く。

「結構いいアングルだな」

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