鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

静けさの中に漏れ出す吐息。
ヒヤッとするほど冷たいレザーの温度が、次第に湿気を帯びるほど上がる。
彼が触れる肩先と、真っすぐ見つめられる視線。
それと脚の間に置かれた彼の脚の存在が、八年のブランクに警笛を鳴らす。

「初めてでは無さそうだが、ご無沙汰か?」
「ッ?!!」
「フッ、……ビンゴか」

怖~~いっ!
モテ男って、そんなことまで分かるの?!

いや、ちょっと待って。
何気にこの状況、おかしくない?

「し、社長っ、……着るだけだって、言いましたよね?」
「……あぁ、そんなことも言ったような」
「っ……」

何ですか、その曖昧な返答。
変な気、起こしませんよね?
ごくりと唾を飲み込み、どうやってこの状況を打破できるか、フル回転で考えを巡らせていると。

「こういうシチュエーションで感じ取ったものも大事だし、そもそも女性は男性にどう見られたいかということを念頭において下着を選ぶんじゃないのか?」
「……たいていの方はそうだと思いますけど」
「だったら、この状況は必須条件だな」
「っっ~~」

何を言い出すかと思えば、この状況をあっけらかんと肯定して来た。
しかも、あくまでも仕事上の便宜だと言いたげな顔で。

「色気が足りないな」
「っ……、大きなお世話ですっ。SEに色気なんて必要ありませんっ」
「まぁ、そうだな」

ゆっくりと体の上から退く伊織。
ソファに横たわる栞那の体を起こすように背中に手を添えた。

「着替えて来い。送ってく」

伊織が触れた背中が熱い。
他意なんてないのは分かっているのに、経験値不足からなのか、無意識に動揺してしまった。

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