鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

有無を言わさぬ威圧感と苛立ちが込められた凄みのある声。
その迫力に栞那は完全に圧倒され、術にでもかかったかのようにその場でくるりと回った。

「着け心地は?」
「……わ、悪くないです」

栞那の返答がお気に召さなかったのか、片眉がぴくっと動いた。

コツコツと床を踏み鳴らす靴音。
その音に反響するように栞那の心臓は激しく律動する。

ドアの前から栞那の元へと詰め寄る伊織を栞那は無意識に視線で追っていた。

真後ろまで来た伊織が優しく栞那の肩に触れると、栞那の肩がびくんと跳ねる。

「ここは痛くないか?」
「……は、はい」

肩紐に添えられた指先。
少し低めで落ち着きのある声音が栞那の耳元に甘く囁きかけられる。

肩紐から背中へとそっと這い伝う指先。
肩甲骨の下辺りからそのまま脇下へと滑らされて。

「このラインは綺麗に仕上がってるな」

再び肩先へと戻った彼の手は、栞那の肩をがしっと掴んで反転させた。
否応なく伊織の視線が栞那の胸元へと落とされた。

吟味するように向けられる視線。
男性の目の前で下着姿になったのなんて何年ぶりだろう。
大学二年の時だから、八年ぶり?!

いや、ちょっと待って。
この状況でかける言葉がおかしくない?

普通なら『何故、下着姿なのか?』とか『ここで何をしている?』だとか。
そこから質問するものじゃないの?
突っ込みどころ満載なんだけど。

「少し前屈みになってみろ」

えっ、まだ続けるの?

仕事の鬼だとは聞いていたが、まさか女性社員が下着姿なのに、一言もそこに触れずに製品のことしか頭にないだなんて。
呆れて物も言えない。

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