鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
相変わらず美声だこと。
顔を見ずとも誰だか分かってしまう。
「すみません、もう少しかかりそうです」
「そうか。……食べれない物とかあるか?適当に頼むけど」
「え?」
「三井、出前を頼む」
「承知しました」
「あの、社長っ」
「気にするな。残業する社員を労うだけだから」
今日は会う約束をしてなかったのに。
どうしてシステム部に来たのだろう?
秘書の三井さんはすぐさま携帯電話でどこかに注文し始めた。
コツコツと社長の靴音が室内に響く。
山下くんのPCを覗き込んだ社長は、横から“この文字の色をもっと目立つように”などと指示を出し始めた。
そんな二人から視線を自分のPCに戻そうとした、その時。
国分さんと視線が絡まった。
社長の姿に視線を移し、そのすぐ後に私に視線を寄こして来る。
“部長に会いに来たんですね”と言われているみたいで、その意味深的な視線に思わず戸惑ってしまう。
*
社長の奢りで、行きつけの和食処の松花堂弁当をご馳走になった。
色鮮やかで食材の本来の味がしっかりと味わえる味付けに、やっぱり美食家なのかな?だなんて思ってしまう。
彼が連れて行ってくれるお店はどこも、一見さんお断りのような敷居の高いお店ばかり。
味はさることながら、上品で洗練された雰囲気の店舗ばかりだ。
二十二時を回り、さすがにこれ以上部下を拘束できない。
「山下くん、国分さん、そろそろ上がろうか」
「……はい」
「はい、お疲れさまでした」
PCの締め作業をして、帰り支度をする。
「山下くん、秋葉原方面だったよね?」
「あ、はい」
「じゃあ、駅まで国分さんも一緒にお願いしていいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「国分さん、遅くまでありがとう。山下くんも、お疲れさまでした」
JR線の二人と分かれ、地下鉄の駅へと。