鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「早くしろ」
「っ……」
「“お疲れ様です、社長”……言ってみろ」
もう、一体何なのよっ!
言えばいいんでしょ、言えばっ!!
「お疲れ様です、社長っ」
彼の言葉通りに吐き、彼の指示通りに頭を下げた。
「思ったより保護力に欠けるな。バージスライン(カップ下部のワイヤーが入っている部分)からフロントパネル(アンダーから支える部分)が不安定だから、生地をもう少し改良するか」
もう言い返す気力も湧かない。
ここまで製品しか目に入ってない人に、『恥ずかしい』だの『パワハラ』だの言っても通じないだろう。
見たければ見ればいいわ。
減るもんじゃないし。
初めてってわけでもないし。
いい歳だしね。
試着する際に首から外した社員証が机の上に置かれていて、その隣りにさっきまで身に着けていた自分のブラジャーが置かれている。
それを一瞥した彼がフッと不敵に微笑んだ。
「lumièreを愛用してるのか」
「っ……」
一目で他社製品の物だと知られてしまった。
*
半年前、大手広告代理店のシステム部にいた私に、社長秘書の三井 理 三十四歳が声をかけて来た。
毎年大きなデザインコンペに出品していて、その時の作品が気に入ったと。
秘書を通して社長直々にヘッドハンティングしたいと申し出があり、二か月悩んだ末、その申し出を受けた。
その時に、社長と一対一で面接したのに。
たった四か月で顔を忘れてしまったのだろうか?
自らヘッドハンティングしておいて、面接までした人物を忘れるはずがない。
だとすると、私がシステムエンジニアだということは分かっているはず。