鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
杉山くんの代わりにKICKSの担当になり十日が経過した。
大手通販会社のKICKSでも歳末セールが行われていて、営業部の木川田さんと一緒に毎日のように及川先輩と打ち合わせをする。
及川先輩は大学卒業後に大手食品機械の会社に就職し、三年前に今の通販会社に転職したらしい。
元々電子工学専門の彼は知識だけでなく、人と触れ合う仕事がしたかったらしい。
木川田さんはBellissimoの売れ筋のライン商品をぶら下げて、ガンガンに営業をしている。
それに対応する及川先輩も、一着でも多く売れるようにと本当に尽力してくれている。
「明後日の放送(テレビ)が年内最後になります」
「約二週間、大変お世話になりました」
「今年も及川さんとタッグが組めて、本当に有難かったです」
「栞那も、忙しいのにありがとうな」
「いえ、……仕事ですので」
「二人が同じ大学だったなんて、本当に驚きです」
「ハハッ、男ばかりの大学だったんで、コイツはかなり希少生物みたいなもんでしたけど」
「美男美女で、かなり目立ってたでしょうね」
「フフッ、……まぁ、栞那はモテモテだったかな」
先輩の大きな手が頭に乗せられた。
昔からこうやって、私を子供扱いする。
あの時だって、見た目は女子大生なのに、中身はきっと中学生レベルだったから。
先輩に触れられることが嬉しくて恥ずかしくて。
いつだって挙動不審だったはずだ。
私がKICKSとの打ち合わせをするのは、今日が最後。
木川田さんは明日も明後日も放送前後に打ち合わせをするらしいが、私はこの打ち合わせが最後になる。
年明けの放送は、杉山くんが復帰してるだろうし。
先輩と会うのは今日が最後だ。
「あっ、すみません。会社から呼び出しがかかったので、今日はこれで失礼します」