鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

黒いスーツの男性に衝突してしまった。
……ん?
この声、どこかで聞き覚えが……。
色気のある優しい声音。

「しゃっ、……社長っ!?」
「何し……」
「……あ」

社長の視線が私の胸元に落とされている。

コートを胸元に当ててはいるが、完全に外されたブラウスから下着が露わになっている。
そして、その視線は開かれたままの襖の奥にいる人物へと向けられた。

「合意の下か?……無理やりされたのか?」

さっきまでの優しい声音ではない。
鬼雷が落ちる時の、鬼魔の言霊だ。

社長から離れようと一歩後退りすると、更に間が詰まるように抱き締められた。

ほんの数分前に先輩に抱き締められた時とは違う感覚が全身に走った。
インプットされている甘めなムスクの香り。
トクンと騒がしいほどに胸が高鳴るあの感覚。

胸元に抱き締めてるコートが奪われ、それで体を覆うように包まれた。

「三井」
「はい」
「彼女を車に」
「承知しました」

社長の背後にいる秘書の三井さんが、コートに包まれた私をスッと抱き寄せた。
すると、社長がつかつかと先輩の元に歩み寄る。

「成海さん、……行きましょう」
「……」
「彼女を脱がしていいのは、俺だけなんだよっ」

無理やりに歩かされる私の視界に映ったのは、先輩のジャケットを掴み、振り上げた拳を先輩に振り下ろす社長の後ろ姿だった。



「すみませんでした……」
「謝るようなことをしたのか?」
「へ?……いえ。でも、お食事をなさりにあのお店にいらしたのでは…?」
「終わって帰るところだったから、気にするな」

三井さんの運転で私の自宅へと向かう車内。
隣りに座る社長の顔を見ることができない。
恥ずかしさと申し訳なさで。

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