鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「あの、三井さんっ……」
及川先輩に襲われた翌日の昼前。
経理部からPCの調子が悪いと内線を貰い、三階の経理部を訪れた、その時。
社長秘書の三井さんが経理部に用があったようで、経理部の人と話をしている。
彼の用件が終わるのを待って、経理部から少し離れた場所で声をかけた。
「はい、何か?」
「その……、昨夜はお見苦しいものをお見せしまして……」
「いえ、昨夜は社長がいたのでお聞きできませんでしたが、お怪我などは…?」
「大丈夫です」
「そうですか」
「私のことより、社長の手の方が……怪我してるんじゃ……」
「それは、大丈夫です。高校、大学とボクシングをなさっていた方なので」
「へ?」
「あ、これはオフレコでお願い致します」
「……はい」
「あの状況では、彼は殴られても仕方ないかと思いますが、昨夜見た感じだと、手は出されてないように思います」
「そ、そうなんですか?」
「手を出せば、多少なりとも拳が赤らめますので」
「あぁ、……はい」
「恐らく、寸止めなさったのかと」
「……」
昨夜は完全に殴り掛かったかと思ったのに。
けれど、例え報復のようなものであっても、簡単に手を出すような人でないことに安堵した。
「彼、KICKSの社員なんですね」
「……はい。うちの担当です」
「昨夜、あの後に彼の経歴等を調べさせて頂きました」
「っ……」
「成海さんは、彼と同じ大学だったんですね」
「……はい、サークル仲間で、元彼です」
「あぁ、なるほど」
三井さんはいつも無表情なのに、初めて僅かに表情を崩した。