鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
秘書課の入口に少し不機嫌そうな社長と、彼のすぐ後ろに珈琲をトレイに乗せた真壁さんが立っていた。
「社長、何か御用でしょうか?」
「……いや、いい」
くるりと踵を返した社長。
「社長っ!」
三井さんは慌てた様子で立ち上がった。
「成海さん」
「……はい」
「急ぎの依頼をしても宜しいでしょうか?」
「あ、…はい」
国分さんを待たせてしまうけど、優先順位から言ったら三井さんの依頼の方が先だ。
「ついて来て下さい」
「……はい」
「真壁、悪い。少し席を外す」
「はい」
いつもようにクールフェイスに戻った三井さんは、早歩きで社長の後を追う。
そんな三井さんを追いかけるように小走り気味に。
社長室の手前に執務室があり、社長秘書の執務を行うデスクがある。
三井さんは手早く珈琲を淹れる。
「成海さん、これを社長に持って行って貰えますか?」
「はい?」
「今の社長に必要なのは、私ではなく、貴女なので」
「……」
急ぎの依頼と言うから、プログラム変更か何かだと思ったら、社長へ珈琲を届けるって……。
「さすがにそれは……」
「お願いします」
「……」
冗談では言ってるようには見えない。
暫く無言の時間が流れる。
スッと差し出されたカップが乗ったトレイ。
珈琲を届けるくらいなら、まぁいいか。
「分かりました」
「では、お願いします」
三井さんからトレイを受け取り、深呼吸した。
三井さんが社長室のドアをノックする。
「はい」
ドアの奥から漏れて来る声。
いつもより低く聞こえた。
「失礼致します」
三井さんがドアを開けてくれ、その先へと歩を進めた。