鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「仕事中なのに、冷静でいられなくなる。……その相手が例え、三井であっても」

艶羨な眼差しを向けて来る。
手首を掴む手に力が込められ、ジンと疼くほどに彼の感情が剥き出しになる。

昨夜の言葉の意味が、今やっと繋がった気がした。
けれど、この感じる感情もきっとそう長くは続かない。

毎日のように甘い時間を過ごしていたって、たった一言で関係性なんて切り捨てられるのだから。

「少し休まれては如何ですか?きっとお疲れなのだと思います」

人間、精神的に追い詰められていたら要らぬことを考えてしまう。
心に余裕がない時ほど、肉体的な休息を取るべきだ。

「年末は特に忙しく、ゆっくり休まれてないのでは?」

デザイナーとしても多忙なのに、経営者としての責任もある。
沢山の社員を抱え、彼の肩にのしかかる重圧は私が想像しているよりも遥かに上をいくはずだから。

「そうだな。ここのところ、ゆっくり休んでないからな」
「そうですよ、ご自宅でゆっくりとご自愛下さい」
「成海もな」
「へ?」
「今日は一緒に食事をしよう」
「っ……」
「何だ、嫌なのか?」
「……べ、別に、嫌では」
「じゃあ、決まりだ」

ふわっと柔らかい笑みを浮かべ、手首を掴む手が解かれた。

**

「えっ、……ダイレクトにご自宅ですか?」
「ん、何か問題か?」
「あ、……いえ」

退社後に社長の車でいつもの通り、どこかで食べてからご自宅に行くのかと思ったら、何故か何処にも寄らずにご自宅に着いてしまった。

ここへ来るのは初めてじゃないのに、辿り着くまでのプロセスが違うだけで、胸がざわついてしまう。

< 51 / 156 >

この作品をシェア

pagetop