鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「気分はどうだ?」

社長に抱き締められて、安心しきったのか。
いつの間にか、泣き疲れて寝てしまったようだ。

視界に映った景色は見たことの無い部屋。
社長の寝室?
それともゲストルームだろうか?

窓から差し込む朝焼け。
滑らかで上質のものだと分かるシーツの質感。
頬を撫でる彼の手のぬくもり。
そして、愛しい恋人に向けるような優しい眼差し。

肌が少しスース―とした感覚がし、自分が下着姿なのだと把握した。
彼に見られるのは初めてじゃない。
これまで何度も下着姿を披露している。
今さら見られたからといって、どうにでもなるわけじゃないのに。

ドクドクドクドクと物凄い速さで鼓動が律動しているのが分かる。
優しい眼差しを向けられ、左胸が警笛をならしているように聞こえた。

「悪い、しわになるから脱がせた」

僅かに視線を落としたことで、考えていることが知られたようだ。

「怖いか?」

優しい手つきで栞那の乱れている前髪がそっと流される。

「……いえ」

そう言えば、私、この人とキスしたよね?
酔ってたから、寝ぼけてたんだろうか?
視線の先の薄い唇から視線が逸らせない。

だって、例え夢でも、あんなにも優しいキスをしたのは初めてだった。

今までの相手はいつも少し強引で、それに応えないと嫌われてしまうんじゃないかという不安が拭えなかった。
キスなんて、その後の行為のための一部にしか過ぎないと思っていたのに。
社長とのキスは、全く違った。

全身を突き抜けるような甘い痺れと吐息さえも躊躇するほど甘く蕩ける息遣いに。

私はこの人が好きなのだろうか?
それとも、女性に手練れている彼のキスに酔いしれただけ?

もう一度、キスをしたら、分かるのだろうか?

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