鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

さすが、経験が豊富な人は違う。
女遊びも豊富なんだろうけど、ちゃんと愛し合う恋愛も経験が豊富なのだろう。
私が八年もの間ずっと悩んで覆い隠して来た気持ちを、いとも簡単に解いてしまった。

上半身をゆっくり起こす。
やっぱり、私には恋愛は向いてないんだろうな。

「社長に愛される女性は幸せですね」
「……フフッ」
「何か、おかしなことを言いましたか?」
「あぁ」

肩を小刻みに震わせながら、笑いを堪えている。
何がそんなにおかしいのだろうか?

「ワイン三杯が、限界か」
「へ?」
「いや、何でもない」

昨夜のことを言ってるのか。
ワイン三杯飲んで酔い潰れた、その後に……。

―――――え?
それって……。

「あの……」
「ん?」
「その、……酔ってて記憶が曖昧で……よく覚えてないんですけど」
「ん」
「私に……えっと……」
「思い出したようだな」
「んっ……」

ぎゅっと抱き締められた。
え、ちょっと待って。
それって……。

『じゃあ、恋人になるか?』

あれは、冗談じゃなかったの?
てっきりお酒の席での出来事だと思ってたんだけど。

酔っているとか、お酒の力を借りてとかではなく。
ただ単に、揶揄いが目的で呟いたとばかり。

「少なくとも、俺は『いい女だと思ったのに、見た目だけなんだな』などとは思ってない。責任感があり、全力を尽くす所や面倒見もよく、自分を犠牲にする所とか。……俺の我が儘にも付き合ってくれる優しい女性だと思ってる」

< 58 / 156 >

この作品をシェア

pagetop