鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

突然耳元に声がした。

二週間ぶりに聞くその声は、知らない間にぽっかりと開いてしまった心の隙間を一瞬で埋めるようなもの。
振り返らなくても声の主が誰なのか、瞬時にで分かってしまった。
だって、仄かに甘いムスクの香りが……。

「随分お忙しかったようですね」
「こういう嫉妬は嫌いじゃない」
「へ?」
「俺から連絡がなくて、恋しかったんだろ?」
「なっ、……そんなわけないじゃないですかっ」
「へぇ~、こんなことしといて、寂しくないと?」
「っ……」

伊織の突然の登場に驚き固まっていた栞那の指先は、パソコンのモニターに触れたまま。
その栞那の指先に伊織はそっと手を重ねた。

「言ってることとやってることが滅茶苦茶だな」
「っっっ~~っ」

相変わらず色気のある美声に、耳の奥から全身に甘く痺れるような刺激が走る。
無意識に鼓動は乱れ、伊織の頬が触れそうな至近距離に紅潮せずにはいられない。

「み、三井さんはご一緒じゃないんですかっ?!」
「三井が気になるのか?」
「え?」
「三井相手でも嫉妬すると、言ったはずだ」
「っ……、痛いですっ」

痛みが走るほどに手がぎゅっと握り締められている。

“高校、大学とボクシングをなさっていた方なので”
そうだ、彼はボクシング経験者。
握力とかも結構あるのだろう。

例え揶揄いだとしても、“嫉妬”だなんて言われたら嬉しくなる。
もう自分の気持ちを隠せないくらい、この人が好きだ。

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