鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
急に話のレベルが上がった。
というより、ついて行けない。
「部長みたいなタイプは好きになって、恋人になって、その先にそういう関係が成り立つと考えるタイプですよね」
「……それがオーソドックスだとは思うけど」
「そうですね、一般的には。関係から発展するパターンもありますけど、まぁあの社長相手じゃ、こっちから仕掛けるのはハードル高いですよね」
ハイレベルすぎる。
言ってることは分かるけど、とてもじゃないけどその領域に到達できそうにない。
「お待たせ致しました、焼き鳥の盛り合わせになります」
十本セットの焼き鳥が運ばれて来た。
話にお手上げ気味の栞那は、つくね串に手を伸ばした。
「さっき言ってた元彼さんがいるじゃないですか」
「……ん」
「昔は凄く好きだったんですか?」
「……そうだね。それまでも付き合った人は何人かいたけど、あの人が恋愛のいろはを教えてくれたようなものかな」
「そうなんですね」
「ん」
砂肝を手にした国分さんは、手元からゆっくり視線を持ち上げた。
「襲われたって言ってましたけど、今はもう何の感情もないってことですよね?」
「……そうだね。少なくても、あの日までは普通に話せたけど、今はもう見るのも嫌かな」
「ですよね」
ちょっと陰りのある表情を浮かべた国分さん。
もしかしたら、似たような経験があるのかもしれない。
「私、高校時代に付き合ってた彼の浮気現場見てしまって。それを問い詰めたら逆切れされて。彼の友達に襲われかけたんですよね」
「えっ?!」
「それも、三人に。浮気した彼が仕向けたんだとバレバレですよね」
「ッ?!!!!」
「まぁ、大暴れして逃げ出しましたけど。……だから、もう恋に溺れるような真似はしたくないんです」