鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

会議室に残っている栞那に、社長秘書の三井が声をかけて来た。

「はい、……何か、御用でしょうか?」

会議室のドアを閉め、三井は栞那の傍に歩み寄る。

「明日の夜、お時間ありますか?」
「……明日ですか?」
「ご無理であれば、明後日でもいいのですが」
「……何時頃でしょうか?」
「何時でも構いません」
「二十時以降であれば、大丈夫だと思います」
「それで構いません。……助かります」

部屋に入って来た時はいつものような無表情の彼だったが、栞那の返事を聞いた三井は、ホッと安堵した表情を浮かべた。

「では、こちらを渡しておきます」
「……鍵?……ですか?」
「はい。社長のご自宅の鍵です」
「はい?」
「この所、根を詰めていて、既に限界のような状態です。私が幾ら言っても聞くような人ではないので、成海さんから、休息を取るように言って頂けないでしょうか?」
「……私にはそんな大役、務まりませんよっ」
「いえ、貴女だから務まるんです」
「……」
「社長は元来、あまり体の丈夫な方ではないんです。幼少期はずっと入院生活していたほどで。高校入学を機にボクシングをはじめ、体力をつけ、今に至ります」
「……」
「健康的になったとはいえ、無茶をすれば昔のように倒れるんじゃないかと心配で」
「三井さんは昔から社長のことをご存知なのですね」
「はい。社長のご祖父様は、私の父の命の恩人なんです。それがきっかけで、幼い頃から頻繁に」
「……そうなんですね」

社長と秘書としてだけでなく、長年の信頼関係があっての二人なのだと改めて知った。

< 71 / 156 >

この作品をシェア

pagetop