鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「美味しそうな匂いだな」
「スープとちょっと変わったカレーを作ったんですが、お夕食に如何ですか?」
「変わったカレー?」
「ンフフッ、はい」
「楽しみだな」
「では、用意しますね」
「先にシャワーして来る」
「はい」

栞那は手抜き用にリーフ系のカット野菜を購入していて、それをサッと水洗いし、器に盛る。
食器戸棚からスープカップとカレー皿とグラスを取り出す。

ダイニングテーブルにセッティングしていると、シャワーを浴び終えた伊織が戻って来た。

「これ、カレーか?」
「ンフフッ、一応カレーですが、社長にとってはもどきかもしれませんね」
「ハハッ、何だそれ」
「お水ですか?それともアルコールにしますか?」
「水でいい」
「はい」

冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、グラスに注ぐ。
先にテーブルについている伊織の前に栞那も腰を下ろした。

「先に言っておきますけど、料理は苦手ですし、味に自信はありません!一応、念の為にお薬をこちらに置いておきますね」
「っ……ハハハハッ、薬も用意するとは」
「……どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」

女子力はマイナス。
男性の胃袋を掴もうだなんて、考えたこともない。
そもそも、男性に好かれようと努力なんてしたことがない。

恋愛というものに溺れていたあの時だって、ここまで尽くしたことなんてない。
一人暮らしをしていたアパートに呼んだことはあっても、自宅で料理してもてなしたことは一度だってない。
いつだって外食して済ませてから帰宅していた。

こんな風に誰かに手料理を振る舞う日が来るだなんて、思ってもみなかった。

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