鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

悪魔だ。
鬼だなんて、可愛いものじゃない。
納期自体がえげつなく短いのに、クオリティまで求めて来る。

「分かってますっ」

丸十二年、システム一筋にやって来たプライドがある。
残業だろうが、徹夜だろうが、やってやろうじゃないのっ!!

「俺も鬼畜じゃない。仕事に追われて食事や睡眠を後回しにし、あるものが馳せ細って見る影も無くなったものを愛でる趣味はない」
「へ?………ッ?!!」

社長の人差し指が、栞那の胸元へと向けられている。
あるものが痩せ細るって、私の胸がってことじゃない。
セクハラだ!!
それに、もうあんな恰好を見せることなんてあるわけないのにっ!

「先日はお見苦しいものをお見せしまして…」

思い出したくもないのに…。
今日は一体何しにここへ来たのだろう。

わざわざシステム部まで来る用事があったのだろうか?
社長室のある二十三階からエレベーターに乗れば、システム部があるこの十一階に降り立つ理由はないはず。

軽く会釈するように下げた視線をゆっくりと持ち上げると。

「俺の作品を着てくれないか?」

栞那は突然投げかけられた言葉に唖然とする。
視線の先にいる社長は至極冷静で、冗談を言っているとは思えない。

他社製品を身に着けていることを知られている栞那。
恋人でなければ、好意を抱いている相手でもない。
『俺の作品を着てくれないか?』などと、一瞬告白されたのかと思い、きゅんとしてしまったではないか。

けれど、表情を見れば合点がいく。
恋愛感情など一ミリも含まないその視線に、栞那の胸にスーッと冷たい空気が差し込んだ気がした。

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