鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

薬の副作用で激痛に苦しんでも顔を見せることもなく、検査結果が悪化してても励ましに来ることもなくなったと。

「おっぱいがなくなったって、髪がなくなったって、痩せ細ってガリガリになったって、同じ人間なんだっておばあちゃんが言ってたよ。どんな体でも愛される資格はあるからって」

伊織の手をぎゅっと掴んで、屈託のない笑顔を向けてくれる少女に、伊織は救われた気がした。

「かんちゃん、ありがとう。元気でね」
「うんっ、いっくんも!」

友達もいなくて、両親にも捨てられ、唯一祖父だけは傍にいてくれたけれど。
より近い目線で接してくれるその子が伊織の心の支えになっていたと気付いたのは、彼女の祖母が退院して数日してから。

急にポカンとあいた虚しさを感じながら、天気のいい日は彼女と過ごした中庭の欅の木の下で伊織は過ごした。


その年の冬。
伊織の容態が悪化し、最後の治療としてドイツの病院へと行くことになった。

毎日のように祖父は付き添ってくれるものの、両親の姿はそこにはなく。
ドイツに渡った後も一度も現れなかった。

幸いにも、ドイツでの治療が伊織の体に合ったようで、一年ほど経った頃にはすっかり外を駆け回れるようにまで回復した。

「伊織。日本に戻ったら、うちで一緒に暮らさないか?」
「……うん」

海外だから見舞いに来れないんじゃない。
誕生日ですら、カード一枚寄こさない両親を待ち侘びるのはもう限界だった。

幸いにも伊織には優しい祖父がいる。
祖母は既に他界しているが、両親の分も可愛がってくれる祖父がいてくれれば、他に何も要らなかった。

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