鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

伊織が日本に帰国し、祖父の元で生活をし始め二年が過ぎようとしていた冬。

中学に通う伊織は、仲のいい友人数人らと学校帰りに遊び、二十時過ぎに帰宅すると。

「お爺ちゃんッ!!」

玄関で倒れている祖父を発見した。
すぐさま救急車を呼び、病院に搬送して貰ったが、既に息を引き取った後で。

「俺が真っすぐ家に帰ってれば……」
「伊織君」
「今朝はあんなにも元気だったのにっ」

祖父の秘書として支えてくれている三井 昭信(あきのぶ)(理の父)に背中を優しく摩られる。
無数の涙が零れ落ち、冷たい病院の床に張り付けられてた気がした。

祖父は伊織の面倒を見ながら、自分の会社を必死に経営し続けていた。
男手一つで育てるのは大変だし、年中不在にする会社の経営も大変だっただろう。

自分さえいなければ、祖父はもっと長生きできたかもしれない。
自分が祖父の手を取ったことで、祖父の人生を不幸にしてしまったのではないかと。

祖父が他界して以来、生きる意欲を放棄するかのように伊織は荒れた。
全身の毛を逆立てるように誰も近づけさせない空気を纏い、大人だろうが噛みつく勢いで。
夜の繁華街で暴れ回り、警察沙汰になることも多く。
その度に身元引受人として、三井が伊織を迎えに行った。

伊織はこんなことをしても無駄だということも分かっていた。
けれど、ぽっかりと開いた穴は虚しさと寂しさと悲しみを突き付けて来る。


「……いっくん?」

ある日、夕暮れ時の公園の芝生の上で寝転んでいた伊織の視界に髪の長い女の子が現れた。
“いっくん”と呼んでくれる人物は一人しかいない。

「かんちゃん?」
「あ、やっぱり、いっくんだ!」

三年前と変わらず、屈託のない笑顔が目に飛び込んで来た。

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