鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「お帰りなさい」
「ただいま」
年末年始の休暇中だから俺の家に来てくれているのは分かっている。
“来れる日はここに来てくれ”と俺が彼女にそう言ったんだから。
けれど、本当に毎日のように来てくれるとは思いもしなくて。
玄関ドアの開く音を聞きつけ、リビングからパタパタと駆けて来る彼女を視界に捉えただけで、心臓が止まりそうになる。
「食事は?」
「食べて来ました」
「そうか」
酒席に呼ばれていることを話してあるから、夕食を済ませてから来たのだろう。
俺の手から鞄を受け取った彼女から、フワッと彼女愛用のシャンプーの香りがする。
自宅でシャワーも済ませて来たのだと分かる。
「仕事してたのか?」
「……はい。趣味とかもないですし、パソコン触ってると安心できるので」
「ハハッ、病気だな」
「社長だって、しょっちゅうスケッチみたいなのしてるじゃないですか」
デザインが思い浮かんだらすぐに形として残しておきたい俺と、何かひらめいたらすぐさまそれ組み立てたい彼女との共通点。
お互いに自然と視線が絡み合い、フッと笑顔になる。
「シャワー浴びて来る」
「いってらっしゃい」
栞那はダイニングテーブルの上に広げられたノートパソコン二台に向かい、真剣な眼差しでキーボードを打ち始めた。
*
シャワーを浴び終え、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。
「明日連れて行きたい所があるんだが、時間あるか?」
「……はい、大丈夫ですけど」
パソコンから視線を持ち上げた栞那は、小首を傾げながら伊織の顔色を窺う。
「酒飲んで来てるから、送ってやれない。今夜も泊っていけ」
「……はい」