鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
社長の自宅に出入りするようになって数日。
会社自体は年末年始の休暇になっているのにも関わらず、毎日会食や打ち合わせが入っているようで、社長はろくに休息も取れずに働いている。
三井さんに頼まれたのもあって、少しでも社長に休息を取らせてあげたいのに。
結局、“お帰りなさい”だとか、“いってらっしゃい”くらいしか声を掛けられずにいる。
合鍵を預かっているとはいえ、特別何をするでもなく。
関係性は恋人なのかな?とは思うけど、あれ以来、それらしいことが一度もない。
“おはよう”と挨拶はあるものの、おはようのキスだとか、いってらっしゃのキスだとかもないし。
ハグ一つないのには、正直驚いている。
もっとグイグイ迫って来るのかと思っていたのに、国分さんが言うようにあっさりとしたタイプなのかもしれない。
最近、彼がデザインした下着を試着することもない。
忙しすぎて、それどころじゃないのかもしれないけれど。
ちょっとだけ、物足りなさを感じてしまう。
あんなにも熱い視線を浴び続けてたからなのか。
優しいキスを知ってしまったからなのか。
もう何も無かった頃には戻れそうにない。
「栞那、もう出掛けられるか?」
「はい」
大晦日の今日は、漸く仕事から解放されたようだ。
毎日自宅マンションから通うのも面倒だと思い、着替えや日用品など必要なものをある程度置かせて貰っている。
というより、空き部屋を自由に使っていいとあてがわれ、すっかり自分の部屋のようになっている。
ツイードのスカートにロールネックのセーター、それとノーカラーのロングコートを羽織っただけの恰好。
お洒落には疎い栞那は、無難な組み合わせにした。