鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「さすが、お洒落ですね」
「そうか?普通だと思うが」

ブラックのボトムスにオフホワイトのセーター、それとブラックのチェスターコート姿の伊織は、モデルと見間違いしそうなほどクールにきまっている。

「寒くないか?」
「厚手のタイツ穿いてるので大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「はい」

スッと差し出された手。
何日かぶりの行動に一瞬焦ってしまった。
そんな戸惑う栞那の手を躊躇なくぎゅっと掴み、歩き出す伊織。
温かい手のぬくもりに、栞那の胸はトクンと跳ねた。

伊織の車で着いた先は……。

「えっ……」

助手席で瞬きも忘れて硬直する栞那。
伊織は運転席から助手席へと回り、ドアを開けた。

「降りないのか?」
「え、……あっ」

動揺する栞那をエスコートするように、伊織は優しく栞那の手を引く。

十二月三十一日、大晦日。
太陽がだいぶ昇っているとはいえ、真冬の寒空の下では息が白い。

伊織は車からビニール袋を手にして、もう片方の手で栞那の手をぎゅっと掴む。
駐車場から歩いて数分。
状況が呑み込めない栞那は、目を大きく見開き、伊織をじっと見据えた。

「寒いけど、ちょっとだけ待ってて」

栞那を立たせたまま伊織はしゃがみ込み、ビニール袋からとあるものを取り出す。
それを目にした栞那の瞳から大粒の涙が溢れ出した。



「あった!!」

手を泥だらけにして、伊織は手のひらサイズの瓶を土の中から掘り出した。
そして、その瓶の中から小さく折り畳まれた紙を取り出して―――。

「俺の願いも叶ったよ」

満面の笑みで紙を広げて栞那にそれを見せる。
そこには『二十年後の君に会いに行く』と、弱々しい筆跡で書かれた文字が。

「かんちゃん」
「っっ……いっくん……なの?」
「ん」

伊織は優しい笑みを浮かべて頷いた。

< 89 / 156 >

この作品をシェア

pagetop