鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「……着るだけ、ですよね?」
「あぁ、もちろん」
「それなら…」

先日試着した時の物は、凄く着け心地は良かった。
社長の申し出は願ったり叶ったりだ。
きっと、社員が他社製品を身に着けていることで、彼のプライドを傷つけたのかもしれない。

「君が着ているところが見たい」

え、今、……何て仰いました?
再び視線を合わせてみるものの、全く揶揄っている様子は微塵も窺えない。

「っ……それって、脱げってことですか?」
「君はおかしなことを言うな。服を脱がずに着れるのか?」

は?
それどういう意味ですか?
社員に頼む案件ではないですよ?
しかも、私はモデルではなく、……システム部を統括するエンジニアです。

自社製品を着る専属モデルは当然いる。
テレビCMや通販に起用している人気女優や人気モデルが。

「社長の仰ってる意味が分かりません。私が着ているところを見て、何のメリットがありますか?」

社員が身に着けているところが見たいだなんて、変態としか思えない。
まともな会話が成り立つとは思えないが、断った後に仕事が気まずくなっても困る。

セクハラ、パワハラ……この人ならやりかねない気がする。
いや、既に被害に遭ってるような……。

「この前見て、確信した」
「……何をですか?」
「俺の作品は君のために作ってるようなものだ」
「はい?」
「俺のイメージそのもので、君が着ているところを想像するだけでクオリティが上がる」
「っ……」
「俺のために脱いでくれ。そしたら、君に合う最高のモノを作ってやる」

変態だ。
想像だか妄想だか知らないけど、怖すぎる。

「新しいデザインのイメージもどんどん湧いて来るし、未だかつてないほどに高揚している」

少し前までの冷えたような瞳ではなく、キラキラと輝かせた瞳で力説されても……。

「君もプロだろ」

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