鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

「もう泣き止めよ」
「いっくんが悪いんじゃないっ」

涙腺が崩壊した栞那は、俺の腕の中でずっと泣いている。
泣かしたいわけじゃないのに。

「もうっ、何でもっと早くに言ってくれなかったの?」
「運命的な再会じゃないから、カッコ悪いだろ」
「はぁ?そんなこと、気にするタイプじゃなかったじゃないっ」
「悪いかよっ、俺だってそれなりに色々と頑張ったんだって」
「意味分かんない。何あの契約とか、無駄に寿命縮めるようなことしておいて、よく言うよっ!」
「それはマジでごめんって」

昔からはっきりとした物言いの栞那。
真っすぐで裏表がなくて。
だからこそ、惹かれたってのもある。

無理やり専属契約に持ち込んだ経緯が納得いかないようで、キレ気味に声を荒げてる。
まぁ、自業自得だから仕方ないか。

俺達が初めて出会った病院の中庭にある欅の木の下。
この場所から、二人でリスタートを切りたかった。

あの時は、一年後を迎えることも難しいと思っていたから。
こんな風に二十年後に君に逢えるとは思いもしなかった。

本当に精霊様が願いを叶えてくれたのかもしれない。
穢れを知らないピュアな俺らに心を動かされて。

俺の胸を小突く彼女の手を掴む。
単なる再会ってだけでも動揺するだろうに、俺は彼女を騙したようなものなんだから。

「もう騙すような真似はしないから」
「……ホントだよっ」
「だから、……俺の家族になって」
「……へ?」

俺には君しかいないんだよ。
生きる希望も生き甲斐も、君だから今日まで頑張って来れた。

「返事はすぐじゃなくてもいいから」

この先の人生も、君がいてくれたら頑張れそうな気がする。
いや、頑張れるんだよ。

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