鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
初めて貰って下さい
一月三日。
まだ年始の休暇中なのだけれど、通販事業部から注文殺到で通信エラーが頻発すると連絡が来た。
大晦日のあの出来事から、彼との距離も一気に縮まり、八年という恋愛ブランクがあるにもかかわらず、そんな事さえ感じないほどに、彼からの愛情は凄く心地よくて。
「それじゃあ、行って来ます」
「遅くなるようなら、連絡入れろ。差し入れでも迎えでも行ってやるから」
「はいはい、あまり甘やかさないで下さい。これ以上甘やかされたら、帰りたくない病、発病しますよ?」
「は?……何でだ」
「幸せすぎて怖くなります。いつか、この幸せが尽きる日があるなら、それが早まる気がして」
「馬鹿だな。尽きる日なんてあるわけないだろ。これからずっと一緒にいるのに」
「そう言って、元彼達は去って行きましたから」
「俺と奴らと一緒にするな」
「男なんてみんな、そういうものでしょ?……じゃあ、行って来まーす」
困惑する伊織を玄関に残し、栞那は伊織のマンションを後にした。
伊織の気持ちは分かっているつもり。
だけど、心の片隅で悪魔のような存在が囁きかける。
“幸せは一瞬なものであって、一生ではない”と。
今が幸せならそれでいい。
明日別れることになったとしても、きっとまた乗り越えられる気がする。
生きていれば、出会いも別れも付き物だもの。
全てが思い通りにならないことくらい、理解しているつもり。
恋に溺れるほど、盲目でもない。
仕事さえあれば、生きていける。
恋愛がなくたって味気ないだけで、別に問題ない。
「仕事仕事!!」
栞那は伊織が手配したタクシーに乗り込み、会社へと向かった。