鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
十三時過ぎに会社へと向かったが、十九時を過ぎても一向に連絡がない。
そろそろメールの一つあってもおかしくないのに。
風呂の準備も夕食の用意も整い、後は彼女の帰宅を待つだけ。
トマト煮のロールキャベツに海老ピラフ、ほうれん草とベーコンのミルクチーズスープ、それと温サラダ。
つまみ用と翌朝の朝食用に幾つか仕込済み。
栞那の帰りを今か今かと待ち侘びているが、一向に鳴らないスマホを見据え、伊織は痺れを切らした。
ロングコートを羽織り、財布とスマホと家の鍵を手にして玄関を飛び出す。
嫌な予感がしてならない。
元々連絡がまめなタイプではないが、それでも“遅くなるようなら、連絡入れろ”と伝えてある。
胸騒ぎがする。
恋人としてなのか、社長としてなのか。
とにかく、今すぐにでも会社に行って確かめずにはいられない。
車で五分ほどの距離にある自社ビル。
地下駐車場に車を止め、エレベーターでシステム部のあるフロアへと急ぐ。
システム部の部屋のドアを開けてみたものの、灯りはついているが、スタッフは誰一人いなかった。
「通販事業部のエラーだと言ってたな。……十二階か?」
靴音を響かせながら来た道を戻り、通販事業部のある階へと急いだ。
「お疲れ様、エラーが出たと聞いたんだが」
「し、社長っ!!?」
「ん?……システム部の連中はいないのか?」
「あっ、今飲み物買いに行ってます」
「……そうか」
「社長、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。新年早々申し訳ありません」
「あぁ、明けましておめでとう。今年も宜しく頼む。で、エラーは直ったのか?」
「はいっ!成海部長が対応して下さって。その後に幾つか修正して貰ったり、明日からの日替わりセールの分の予測データも出して下さったりで、本当に助かりました」
「そうか」
通販事業部のスタッフ数人が伊織の登場に硬直気味だ。