鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「それにしても遅いですね。向かいのビルのカフェに行ったはずなんですけど」
「成海一人か?」
「いえ、SEの山下さんも一緒です」
「あぁ、……彼か」
伊織の胸騒ぎが色濃くなる。
栞那を信用してないわけじゃない。
けれど、胡坐を掻いて安心できるわけでもない。
「もう大丈夫そうなら、休暇中なんだし、早めに上がってくれ」
「はいっ、社長もわざわざありがとうございました」
通販事業部の池田(部長)が頭を下げる中、伊織は踵を返して部署を後にする。
そして、すぐさま栞那へと電話をかけた。
けれど、何コールも呼び出すのに一向に繋がらない。
挙句の果てには留守電に切り替わった。
一階に向かおうとエレベーターに乗ろうとした、その時。
二機あるもう一つのエレベーターが四階で停止した。
連休中で休日出勤している社員は少ない。
警備会社の社員が見回るにしても、通常エレベーターは使わない。
四階があるのは総務や庶務。
休日出勤する社員がいるとは思えない。
伊織はエレベーターに乗り込み、四階を押した。
半月ほど前の出来事が蘇る。
料亭で元彼に襲われた彼女を。
焦り狂う感情を必死に堪え、四階に停止したと同時に開扉のボタンを連打した。
四階に降り立った伊織の視界には誰もいない。
耳を澄まして気配を感じろうとした、その時。
フロアの奥にある休憩コーナーの方から話す声が漏れて来た。
言い争うでもなく、叫んでる感じでもないことに違和感を覚えた伊織は、足音を立てずに静かに近づく。
すると、