鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「ごめんね。さすがにそれは無理というか、そういう大事なことを簡単に貰うとか、そういうのは好きな子とするものだと思うから」
「だからですよっ!部長に好きな人がいてもいいんです。俺が部長のこと凄く好きなんで、絶対後悔しないですし」
「そんなこと言われても困るよ。……彼を裏切るとか、私にはできないから」
「もう付き合ってるんですか?この間までは、付き合ってる人いないって言ってたじゃないですか」
「あの時は……そうだったんだけど、今は……」
フロアの突き当りにある休憩コーナー。
エレベーターから降りて来た伊織の気配は、会話する二人にはバレていないようだ。
伊織の胸騒ぎが的中した。
といっても、襲われているとかでは無さそうだが、口説かれているのには間違いない。
「一回だけ、本当に後腐れなく、初めてだけでもダメですか?」
「……ごめんね」
「はぁぁぁあぁ〜〜ぁ。すっげぇ勇気振り絞ったのに…」
「そんなこと言われても、さすがに“初めて貰って下さい”は無理があるよ」
は?
えっ??
何、その会話。
ただ単に口説かれてるんじゃなくて、栞那に“男にしてくれ”って頼み込んでるってこと?
いやいや、さすがにそれはダメだろ。
食事をするだとか、飲みに付き合うのとはわけが違う。
伊織は深呼吸して、二人の元へ。
「悪い、立ち聞きするつもりは無かったんだが、見過ごせない状況だったもので」
「し、社長っ……」
「っ……いつからいたの?」
驚愕する二人を見据え、山下に当てつけるように栞那の手を掴む。