鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
「山下、悪いな。彼女とは二十年来の知り合いなんだ」
「へ?」
「既にプロポーズもしてる」
「え、……そうなんですかっ?!」
「……うん、ごめんね」
「そんな風には全然見えなかったですよっ!?」
「仕事とプライベートは区別してるからな」
山下に対して大見えを張った伊織。
ここ数日で急展開しただなんて、知る由もない山下に格好つけただけだ。
そんな伊織の振る舞いにクスっと笑う栞那。
掴まれた手をぎゅっと握り返すことで応えた。
「そういうわけだから、悪いが他を当たってくれ」
「っっ……はい、すみませんでした」
「いや、謝ることじゃない。山下の目にも、魅力的に見えたってことだもんな」
「っ……はいっ」
「まぁ、俺らが同じ好みの女だったってことだ。気にするな」
いたたまれない表情を浮かべる山下に対し、あからさまにマウントを取る伊織に栞那がパシッと背中を叩いた。
「いっくん、大人げないよっ!」
「何だよっ、モテるからっていい気になるなよ?」
「はぁ?そういう捻くれた性格、可愛くないよっ」
「可愛くなくて結構」
プイっと顔を背ける二人を目の前に、山下が頭を掻く。
「お似合いですよ、お二人とも。俺なんかが入る隙なんて一ミリもないのが分かりました。お先に戻りますね」
ペコっと会釈した山下は、珈琲が入っている袋を気にしながら、その場を後にした。
「悪い。……ちょっと嫉妬した」
「私も言い過ぎた。……ごめんなさい」
繋いでる手が熱い。
お互いの想いが溢れ出すようで。
「山下くんに口止めするの、忘れちゃったね」
「別に口止めする必要ないだろ」
「え、……いいの?」
「俺はむしろ、今すぐ公表したいけど」