クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
週末に、結婚式の事を事務所で話していると、広大さんのお父さんが、
「この事務所も引っ越しすることになるし、今までここで勤めた人達集めてお披露目会しようか!」
そう言い出したもんだから、「じゃあ、結婚式は身内だけで済ませよう」と纏まって、お披露目会の招待状を作るお父さんは、古い名簿まで取り出して来た。

「碧はいいのか?結婚式それで」
「はいっ!私、実はそうしたいと思ってて。友達も少なくて、今呼びたいのは北川さんくらいですから」
「そうか・・・それなら、お披露目会を盛大にしよう」
「楽しそうです!」
「この事務所にも沢山の人が勤めたからね。賑やかになるぞ」
お父さんは名簿を見て、懐かしかったのか、1人1人の思い出を語りながら、私達は時が過ぎるのを忘れるくらい、聞き入っていた。

退職まであっという間に、時が過ぎていった。
皆に挨拶をして回り、最後に大倉さんに挨拶をしに行った。
「大倉さん。短い期間でしたが、ご指導と私生活の事まで色々と聞いていただいて、ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。笠間さんに出逢えて良かったよ」
「そんな・・・それは私の方です」
大倉さんが背中を押してくれたから・・・

すると、大倉さんが私に手招きして、近寄ると
「広大君が幸せにしなかったら、俺が奪いに行くから」
耳元で囁く言葉に、顔が赤くなる。
「もーっ!最後の最後まで冗談言って!でも大丈夫です!そうなる事は絶対に無いですから」
「おっ、自信満々だね。税理士事務所、大変だけど頑張って」
「はい!」
大倉さんが右手を差し出し、私は両手で握った。
「ありがとうございました!」
そっと手を離すと、大倉さんは優しく微笑んで、
「幸せにな」
その言葉に頭を下げて、私は部屋を出て行った。
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