クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
「初めまして。碧です」
「碧さん、私の事は広大から聞いてると思うのに、来てくれてありがとう」
「今日は、お礼を言いたくて来ました」
「お礼?」
「広大さんと結ばれたのは、このキーホルダーのお陰なんです」
そして、バッグからカキツバタのキーホルダーを取り出した。
「これは、私が広大にあげた・・・」
「このキーホルダーが、私に幸運を運んでくれました。そして、私のお腹には広大さんとの赤ちゃんがいます」
「えっ?」
「お母さんがいたから、広大さんが産まれて、大切な2人の子供もお腹の中に・・・だから、一言お礼を言いたくて・・・」

お母さんは口元を抑え、嗚咽を我慢しながら、泣いていた。
「広大さんは、連れて来れなかったですけど・・・ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
もう広大さんの所に戻ろう。きっと心配してるから。

一礼して、振り返ると、急に抱きしめられた。
見上げると、そこには広大さんが立っていた。
「広大さん・・・」
「広大?」
お母さんは覆ってた手を外し、広大さんを見つめた。
「広大・・・」
「碧を迎えに来ただけだから」

私の手を引いて、歩きだそうとした時、私は引き留めた。
「広大さん。何も言うこと無いんですか?」
広大さんはしばらく黙っていたけど、振り向いて、
「俺は許すつもりもないし、もう会うこともない。ただ・・・」
静かに冷ややかな声で本音を言葉に出した後、お母さんを見つめた。
「俺を産んでくれてありがとう。母さん」
そう言うと私の手を取り、振り向くこと無く歩き出した。
私が振り向くと、お母さんはただ泣き崩れていた。
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