クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
かがみ込んで探していると、
「どうした?帰ったんじゃなかったのか?」
その声に顔を上げると、時東さんが立っていた。
「すみません!もう帰ります」
慌てて帰ろうとすると、
「ちょっと待て。そんな顔した部下を帰せないだろ」
涙を浮かべていた私を心配するような目で、私の瞳を見据えていた。

「どうしたんだ?俺に知られて、困ることなのか?」
「いえ・・・落とし物を探してまして・・・」
「涙を浮かべるほど、大切な物なんだろ?俺も探すから、何を落としたんだ?」
「先日、セミナーの時に時東さんに見せた、キーホルダーです」
「・・・そうか。それは何が何でも見つけないとな」

時東さんは、時計を見て少し考え事をした後、急いでコートを羽織りながら、
「もう残っているのは俺だけだ。ここは月曜日の朝、俺が探す。外に行くぞ」
鞄を持ち、部屋を出る時東さんに付いて、会社を後にした。

「昼間、どこに行ったんだ?」
「ランチしに、イタリアンのお店です」
「そのお店は、夜も開いてるのか?」
「はい、確か夕方から9時頃まで・・・」
「ギリギリだな。行くぞ」
2人は、小走りで近くの小さなイタリアンのお店に行った。

丁度、お店を閉めている時で、看板を運んでいる店員さんに声を掛けた。
「すみません。落とし物で、このキーホルダーはありませんか?」
私は、携帯で撮っていたキーホルダーの写真を見せた。
「今日は、落とし物、無かったですよ」
軽く頭を下げた店員さんは、お店の中に入って行った。
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