クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
今まで部下の1人に過ぎなかった笠間さんが、視野に入って来た。
長い黒髪を、1つにまとめ、白い肌、ふっくらとした唇にグロスが輝き、二重瞼の大きな目。愛らしい顔が幼く見える。
控えめで、配属になった時は、忙しい経理課で勤まるか、心配なくらいだった彼女。
でも、北川さんと話している時の笑顔や、眉間に皺を寄せて、パソコンの画面を見る姿まで目に留まり、楽しく笑う声や話声に耳が傾く。

何か困っていないか、分からない事はないかと、神経が研ぎ澄まされて・・・
特別視してはいけない。そう分かっていても、得体の知れない感情が、湧き起ってくる。

これって、好きなのか?
いや、違う。俺がそんな感情になれるはずがない。
ただ、今までの彼女や桜子さんとは違う。
そうか。妹みたいな情なのか・・・
そう思いながらも、日に日にその情は、深くなっていった。

そして、熱を出した彼女を家に連れて帰った日。
寝ている姿に、息を呑む。今までの自分とは明らかに違った。
しばらく女を抱いていないせいか。それとも・・・

ダメだ。部下だぞ。そう思って、部屋を出ようとした時、
「こう君・・・」その言葉に足が止まった。
「行かないで・・・」俺は直ぐ傍にいるぞ。
でも、あの頃の俺とは違う。あっちゃんに優しくしていたあの頃とは・・・

振り向くと流れる一筋の涙に、今までにないほど胸の鼓動が高まり、心が揺れる。
これは・・・まずい。感情が乱れている。
俺は冷静さを取り戻すために、部屋を出た。
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