クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
バッグから筆箱を取り出して準備をしていると、「ここ空いてる?」と、男性に声を掛けられた。
「はい、空いてます」
「どうして1人で座ってるの?」
「えっ?」
横に座った人を見ると、時東さんだった。
「時東さん、今着いたんですか?」
「役員と話をしててね。笠間さんの横が空いてて、良かったよ」
いつもクールな時東さんが優しく微笑むと、一段とドキッとする。
「駅まで行ったんですけど、忘れ物に気付いて、会社に戻ったので」
「そうか。笠間さんらしいな」
淡々と鞄の中から、筆箱を出している時東さん。
きっと呆れてるよぉ。

セミナーが始まると、時東さんは真剣な顔つきで聞き入り、メモしてた。
私は、講師の説明が日本語に聞こえず、脳が停止状態で睡魔が襲ってくる。
もう限界!って時に、ようやく休憩が入った。
目薬、目薬っと。

「笠間さん、大丈夫?眠たくなるだろ」
「すみません。分かる部分もあるんですが、殆どつかみ所が無い感じで」
「俺も初めの頃はそうだったから。でも、全部覚えなくていいんだよ」
「そうなんですか?」
「うちに関係ないこともあるしね。俺がまた皆に説明するから」

凜とした空気を醸し出す時東さんに引き込まれる。
こんな素敵な人になりたいなぁ。
「ありがとうございます」
「但し、寝るなよ」
「は、はいっ!」
私は緊張で目が覚め、おかげで意識を保ち続けれた。
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