クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
一緒に連れて行って欲しいのに。寂しくて仕方ない。
私が声を殺して、涙を流していると、
「好きになってごめん」
切なそうな声で、私を強く抱きしめた。

その言葉に胸が苦しくなる。
こんなに愛して貰っているのに。沢山の愛を貰ったのに。
好きになったことを謝られるなんて・・・
「広大さん・・・私、広大さんに会う度に、いい女になったな、仕事もこれだけ出来るようになったのかって、言われるように毎日頑張ります。楽しみにしててください」
広大さんは私から体を離し、目を見つめて微笑んだ。
「あぁ、楽しみにしているよ。今でも十分、いい女だけどな」

愛に溢れるキスは、私の不安を取り除く。
そして、お互いを愛おしむように体を重ね、より一層愛が深まっていく。
「男の事は、俺以外に学ぶなよ」
「はい・・・これからもいい女にしてください」
「全く・・・俺に火をつけるのが上手いぞ」
色気ある瞳に見つめられながら、包み込むように愛される時間。
離れても、ずっとこんな幸せが続く事を願った。

次の週には、広大さんが退職届を出して、部長はずっとソワソワしてる。
決算のことを考え、5月末退職にしたけど、5月の連休が終わったら、リモートで対応するらしい。
人事も経理課長の募集を直ぐに手配し、水面下で着々と広大さんの退職に向けて、事が運ばれた。

4月に入ると、広大さんは、報告書の文章を早めに作成したり、チェックもほぼ終わらせてた。
合間に引き継ぎのために、部長と会議室に入る時間も長くなった。
「最近、部長と時東さん、何かおかしくない?」
北川さんや他の課員達もその様子に、不安を感じているようだった。
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