クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
広大さんと電話で話した時に、その事を伝えると、翌日に経理課員が呼ばれ、退職が告げられた。
そして、関係部署にも伝えた方が良いだろうと、他の部署にもその事が伝わった。

皆、動揺が隠せない。
圧倒的なカリスマ性のある広大さんが、居なくなる。
会社を揺らがす事態となっていた。

不安に思った管理職達が、今のうちにとファイルを片手に広大さんを訪ねてくる。
決算どころでは無く、広大さんは会議室に呼ばれる時間が多くなった。

「広大さん、大丈夫ですか?」
金曜日の夜、夕食を作って待っていると、帰宅は10時を過ぎていた。
「あぁ、こうなることは予想してたから」
シャワーを浴びて、夕食を食べると、
「碧。片付け頼んでいいかな?少し横になりたいんだ」
広大さんが疲れた姿を見せるなんて、よっぽどだ。
「大丈夫ですよ。先に休んでください」
「ありがとう。ベッドで待ってるよ」
寝室に入って行く広大さんを見つめていた。

部屋の中は、少しずつ段ボールが積まれている。
ほんとに辞めちゃうんだ・・・現実を突きつけられるようで、寂しさが込み上げて来た。
片付けが終わってベッドに向かうと、広大さんはもう眠りについていた。

どんなに忙しくても、相談に来る人に嫌な顔をせず、真摯に対応する広大さん。
せめて、私だけはわがまま言わないようにしないと。
どんなに寂しくても・・・
不安を抱きながらも、そう自分に言い聞かせて、眠りについた。
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