クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
決算の締めが近づくし、月末の支払処理をして、手形も発行しないと。
今日に限って、仕事が詰まってる。幸い金曜日だ。何とか乗り切ろう。

息をしているのかも分からないくらい集中して、大倉さんにもチェックして貰い、何とか終わらせることが出来た。
私って、やっぱり時間が掛かってる。
広大さんにいつか言われた『いかに無駄な作業を無くすかだ』
私、未だ出来ていないじゃない・・・
桜子さんなら、きっと広大さんの期待を裏切らない。
私は・・・迷惑かけっぱなしだ・・・

「大倉さん、遅くなってすみませんでした」
「片付いた?」
「はい。そろそろ帰ります」
「そうか。俺も帰るから、一緒に帰ろうよ。その前に何があったか俺に話して」
私が大倉さんを見つめると、優しく微笑んでいた。
「いえ、何もありません」
「広大君と何かあったの?」
私が黙っていると、
「ここでは話しにくいよね。帰りながら話そう」
書類を端に寄せ、鞄を持って帰る準備をし始めた。

ゆっくりと歩きながら、駅へと向かう時間。
「すみません。仕事が遅くなった上に、身の上話なんて」
広大さんと桜子さんの事を知ってる大倉さんに話したら、すっきりするかも・・・
「部下の心のケアをするのも、上司の仕事だからな」
「大倉さんって、本当は優しいんですね」
「どういう風に俺を見てるんだよ。少し、あそこで話そうか」

駅の近くにある広場の木の下で、2人佇んだ。
「で、何があった?」
「・・・時東さんと、別れたんです」
「どうして、急に」
「時東さん、好きな人がいるみたいで」
「えっ?勘違いじゃないの?」
「昨日見ちゃいました。彼女が時東さんに抱きつくの。相手は桜子さんでした」
「桜子が?」
「もういいんです。時東さんが一番好きな人と一緒になる方が・・・」
「そうか・・・まぁ、桜子なら、あり得ないとは断言出来ないな」
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