クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
私は、涙が溢れそうなのを我慢して、言葉を口にした。
「お似合いだと思いました。だから、好きな人が出来たって言って」
大倉さんは、しばらく黙っていて、
「じゃあ、その相手、俺にすれば?」
熱を帯びた瞳で見つめられた。
「俺が広大君の事、忘れさせてあげるよ」

目が離せない。でも・・・
どうしてだろう。目の前の大倉さんが広大さんと重なる。

広大さんに初めてキスされた時、ドキドキして、凄く嬉しかった。それは今でも・・・
初めて愛された夜、観覧車に乗って頂上でキスしたこと・・・
思い出すのは広大さんの事で、涙が溢れてきた。
忘れるなんて・・・出来ない・・・

「やっぱ、前の男の事を思って、そんな顔する女はお断りだ」
大倉さんは、私の肩を持って、後ろを振り向かせた。
「本音で話し合って、それでもダメなら、俺の所に来い」
振り向くと、駅の前で誰かを探すように、見渡しながら走って来る、広大さんの姿が見えた。
「でも・・・」
「いいから、早く行け」
後ろを振り向くと、大倉さんは背中を向けて、その場から離れて行った。
広大さんの方に向かって走ると、私を見つけて広大さんが駆け寄って来た。
「碧!」

広大さんは、私に抱きついてきた。
「広大さん・・・どうして」
「連絡つかないから、直接会いに来たんだ」
肩で息する広大さんの温もりが、冷え切った私の心を温かくする。
「寂しい思いをさせたのは分かってる。でも、別れる前に話を聞かせてくれ」
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