クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
大倉さんはしばらく黙っていたけど、退職届を手に持ち、
「上司だから当たり前だよ。じゃあ、これ、部長にも報告するけど、本当にいいんだね?」
その質問に迷いは無かった。
「宜しくお願いします」
話が終わり、大倉さんがドアを開けようとした時、
「笠間さん。あの夜、広大君に会えなかったら、俺に少しは気持ちが向いた?」
振り向かず、私に背中を向けた大倉さんに問われる。

どうなってたんだろう。
少し気持ちが揺れたのは確かなことだし。
「・・・分かりません」
「じゃあ、可能性はあったわけだ」
「ただ・・・私はいつも時東さんの事で頭がいっぱいでした。大倉さんといる時も。
だから、気持ちが傾いたとしても、きっと、大倉さんを困らせたと思います。冗談で良かったです」

そう。あれは寂しさのあまり、大倉さんの優しさに甘えが出ただけ・・・
あの夜、大倉さんの見つめられた瞳に、私の頭に浮かんだのは、広大さんの事なんだから。
「そっか・・・それなら良かった」
大倉さんはドアを開け、私達は会議室を後にした。

北川さんにも報告しないと・・・
ランチの時に、結婚のこと、仕事を辞めることを伝えた。
「いいなぁ、指輪。私も彼氏欲しくなってきた」
「色々とご迷惑お掛けすると思うんですが・・・」
「気にしない気にしない。何とかなるわよ。笠間さんの幸せの方が大切だから」
「ありがとうございます」
「落ち着いたら、声掛けてね」
北川さんの少し潤む目に、胸がいっぱいになった。

北川さんが居てくれたから、仕事も人としても成長出来た。
「辞めても友達として、これからもお願い出来ますか?」
「当たり前じゃない!」
私の手を握って、笑顔で涙を浮かべていた。
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