【小説版連載中】エルピスの花嫁〜双子の神様に愛されて〜シナリオ版の更新は終了しました
第二話
○珠子のクラス(休み時間)

友達A「海外って、どこに住んでたの?」

幸夜「ギリシャだよ」

友達B「瞳の色きれい〜ハーフ?」

幸夜「ううん、おばあ様がギリシャ人なんだ。だから、クォーター」

友達B「おばあ様だって〜、お上品!」

友達C「顔そっくり〜。ねえねえ、マスク外してみせてよ」

友達ABCの他にも多数のクラスメイトたちに囲まれて質問責めに合う双子。
幸夜は愛想良く受け答えしているが、咲仁は無視を決め込んでいる。

友達C「クール! かっこいー」

楽しそうな会話をよそに、珠子は幸夜の婚約者宣言に頭を抱えている。

珠子(婚約者ってどういうとこ!? 聞いてないんだけど!!)

幸夜を問い詰めたい気持ちでいっぱいだから、取り巻きに阻まれて近づけない。

友達B「それで幸夜くん‥‥珠子の婚約者って本当!?」

本題を切り出した言葉に、会話に参加していなかったクラス中の生徒たちまで聞き耳を立てる。

珠子(巻き込まれる前に逃げよう‥‥!)

事情も知らないまま厄介ごとには巻き込まれたくないと席を立ち、こっそり教室を出ていく珠子。

幸夜「それはねぇ〜」

話し始める幸夜が気になったが、廊下に脱出する珠子。

○学校・廊下(休み時間)

花「珠ちゃん‥‥!」

廊下に出た珠子を花が追いかけてくる。

珠子「ごめん、花。
私も初耳だし、今なに質問されても答えられないから!」

なにか言おうとする花を手を制する珠子。

珠子「ちょっと、パパに電話してくる!」

花の元を去る珠子。

○学校・中庭(休み時間)

校舎の陰で電話をかける珠子。
画面にはパパと表示されている。

○(回想)珠子のクラス

花「珠ちゃんのお父さん、また雑誌に出てたよ!」

珠子が座っていると、花がテーブルに雑誌を置く。
陶芸雑誌の表紙には、『車椅子の陶芸家 高良喜久』と大きく書かれている。

珠子「買ったの?」

花「知ってる名前あったから、表紙買い」

ニコニコと笑う花に、珠子は複雑そうな表情で雑誌をめくっている。
雑誌の中には、珠子の父親の写真や作品の解説、海外での活躍が載っている。

花「おじさん、今はギリシャに行ってるんだね」

珠子「イタリアに行ってたはずなんだけどな‥‥
娘が父親の所在を雑誌で知るってどうなのよ」

珠子の眉間にシワがよる。

珠子「本当になんにも連絡してこないんだから。
一人残した娘が心配じゃないの!?」

憤る珠子に、花は苦笑いをしている。

花「おじさん、珠ちゃんのこと信頼してるんだよ。
うちも片親だけど過保護だから、放任主義のおじさんはちょっと羨ましいな」

寂しそうな顔をする花に、珠子もつられる。

珠子「おばさん、ちょっと強烈なところあるもんねー」

花「デートは月一までとか、少なすぎるよ」

しょんぼりする花に、教室の外から声がかかる。

榴「花!」

二人が目をやると、教室の入り口に榴(三年生。精悍な顔立ち。背が高く花とは身長差が大きい)が立っている。

花「榴!」

一気に表情が明るくなり、榴に駆け寄る花。
微笑む榴と笑顔の花を微笑ましそうに見ていたが、机の雑誌に視線を戻すと、父親の写真にため息をつく珠子。

珠子「ホント、もっとちゃんと連絡よこしてよね」

(回想終了)

○ 学校・中庭(昼)

スマホの画面が通話中に切り替わる。

父親「もしも‥‥」

電話に出た父親の声に被せるように、珠子がスマホに向かって叫ぶ。

珠子「パパ!
いったいぜんたいどうなってるのか、ちゃんと説明しなさーい!」

電話の向こうで耳がキーンとなる父親。

父親「あ、もしかして敷智くんたち到着した?
ハッピーバースデー、珠子。
パパからのサプライズプレゼントだよ〜」

にこやかな父親の声とは裏腹に、珠子の眉は吊り上がっている。

珠子「婚約者がサプライズプレゼントってなによ!
どういうこと!?」

父親「そうそう。幸夜くん? 咲仁くん?
あれ、どっちがどっちだっかな。まあいいや。
珠子ももう結婚出来る年なんだし、パパも元気なうちに珠子の花嫁姿が見たくてね」

珠子「花嫁姿よりももっといろいろ見るべき姿あるでしょ!?」

父親「大事な時期に一人で日本に残すことになったのは謝るよ。
でも、海外を連れ回すわけにもいかないし‥‥」

電話口の父親があくびをする気配がした。

父親「まあ、とにかくそういうことだから。
悪いけど、こっちはまだ深夜なんだ。
明日も朝早いからパパは寝るね〜
おやすみー」

一方的に切られた電話に、呆然とスマホを見つめる珠子。

珠子(芸術家って、みんなこんな自分勝手なの!?)

幸夜「珠子ちゃん、見っけ〜」

スマホを握る珠子の後ろから幸夜の腕が伸びてきて抱きしめられる。

珠子「きゃあっ!」

赤くなる珠子。
幸夜に遅れて咲仁もやって来る。

咲仁「喜久さんと連絡は取れたか?」

珠子「取れた‥‥
けど、二人が不審者じゃないことしかわからなかった」

珠子(とりあえず、パパの知り合いみたいだから、身元は確かよね)

幸夜の腕を取り、自分から離す珠子。

珠子「パパとはどういう関係なの?」

幸夜「昔なじみなんだ‥‥
両親が」

珠子「でも、だからって婚約者なんて」

幸夜「そう! 僕は珠子ちゃんと結婚するの」

嬉しそうに笑う幸夜。

幸夜「みんなにも宣言したし、これでもう珠子ちゃんに悪い虫もつかないね。安心安心」

にこにこする幸夜とは裏腹に、信じられないといった顔をする珠子。

珠子「幸夜君はそれでいいの?
今まで会ったこともないのに」

珠子の言葉に、少し悲しげな顔をする幸夜。

幸夜「まあ、確かに初めて言われたときはびっくりしたけど‥‥
一目惚れしちゃったから」

それをごまかすように、にぱっと笑う幸夜。
一目惚れという言葉に赤くなる珠子。

幸夜「信じられない? でも、本当だよ。
一目見て心を奪われたんだ。
君に笑いかけてもらえたら、きっと天にも昇るような気持ちだろうなって思ったんだ」

珠子「嫌じゃなかったの?」

幸夜「全然!
だって、君と僕はずうっと昔から結ばれるのが決まっていたんだから」

珠子の前髪をかきあげ、額にちゅっとキスをする幸夜。

幸夜「君が好きだよ、珠子ちゃん。
珠子ちゃんは僕が嫌い?」

額を押さえて真っ赤になりながら、幸夜から目が逸らせずなにも言えない珠子。

珠子が何か言いかけようと口を開きかけたとき、咲仁が珠子の腕を引っ張る。

咲仁「珠子から離れろ!」

幸夜から引き離された珠子は、咲仁の胸に飛び込み抱きしめられていた。
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