秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 左の壁際にベッドがあった。白いシーツに畳まれた白い毛布。その横に机がある。机の脇に棚があって教科書とか参考書が並んでいる。窓を挟んで反対側にあるのはタンスのようだ。母のものよりも小さい。かわいらしいランプと壁際のスツール。それに彼女が腰掛けている椅子。それだけだった。なんというか、スペースが余っている、部屋の大きさに対して家具の数が少ない。漠然とそう感じた。

「こっちへ来て。わたしのそばに来て」

 彼女が呼んだ。これが彼女の声なんだと思った。呼ばれたとおりに彼女に近づく。剥き出しになった白い足に僕の目が釘付けになる。その手は相変わらず白いスカートの中に。

「こっちよ。わたしの前に。そう。そこにいて」

 誘導されるままに、彼女の斜め前に立った。

「じゃあ、そこで見ていて。光輝くん」

 えっ、と声が出た。名前を覚えてくれていたのは嬉しかった。しかし、どうしたらよいのかわからない。
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