シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜
「いい、碧。よく聞いて」
 
 興奮する私とは対照的に、蒼の声はどこまでも冷静だ。

「いつかウェディングドレスを着るのが夢だと言っていたね。でも、僕が相手じゃ叶えてあげられない……歯がゆいよ、すごく」
 
 まだこの禁忌の恋の行く末を明確にイメージできていなかったころ、漠然と純白のドレスに憧れを持っていた。
 蒼の言う通り、彼といることを選択したら永遠に着ることはないだろうけれど、それでも蒼と別れることに比べればなんてことないのに。
 私が反論するよりも先に、蒼が続ける。

「大好きな碧だから、夢を叶えられる人と一緒にいてほしいと思う。たとえその恋が途中で燃え尽きたとしても、そういう未来につながっていると思える相手と――たとえば、カミジュンとか」
「……知ってるの?」

 ピンポイントにカミジュンくんの名前が出たことにびっくりして、うろたえてしまう。
 蒼に彼のことを話した記憶はないのに。

「デートしたことも、碧が彼をいいなと思ってることも知ってるよ」
「ご、ごめんなさい、私……」

 弁明のしようもない。
 異性とふたりきりだとわかってデートに出かけたのは事実だ。
 そこでカミジュンくんに好意を抱いたことも。
 私は罪の意識で胸にチリチリとした痛みを感じつつ謝罪する。
 言い訳めいた言葉が続きそうになるのを、蒼の優しい声が割って入る。

「勘違いしないで。僕は怒ってるわけじゃない。むしろそれでよかったと思ってる。カミジュンっていい人そうだし、碧のこと……大事にしてくれそうな気がするし」

 言葉通り、蒼の口調はちょっとうれしそうだった。
 どうして、と戸惑っていると、蒼がくすっと笑いをこぼした。

「僕たちは、ちょっとふたりきりの時間が長すぎたのかもしれない。碧は外に目を向けて、自分を本当の意味で愛してくれる人を探したほうがいい」
「無理だよ。蒼じゃなきゃだめなの」
 
 蒼は兄であり、弟であり、ずっと私を守ってくれた大切な人。
 今の私がいるのは蒼のおかげで、代わりなんて利かないのに。
 ……たとえ、カミジュンくんでも。
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