シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜
「碧はそう言うと思ったよ。だから僕は、君の前から消えようと思う」
「……!?」

 さらっと放たれた言葉に、私は絶句した。
 私の前から『消える』。
 そのたった三文字の意味を咀嚼できず、頭のなかをぐるぐると回る。

「……どういうこと?」
「文字通り、碧の前から姿を消すってこと。……いなくなるって」
「そんなのだめ!」

 想像しただけで気が狂いそうだ。
 ……蒼が、私の前から消える。いなくなる。
 ――そんなのいやだ。耐えられない。

「お願い、私は蒼がいないとだめなの――私から大事な人を取り上げないで!」
 
 私はたまらず両手で顔を覆った。
 蒼の存在が消えた場所で、自分が生きていける気がしない。

「碧はもう大丈夫だよ。僕がいなくてもやっていける。杏香もいるし、カミジュンだって……碧を支えてくれるよ」

 優しい声色のまま、蒼が言った。
 泣き崩れる私に怯むこともなく、決意の固さを示すみたいに。
 彼は同じトーンで囁きかけてくる。

「今まで本当にありがとう。これからもずっと大好きだよ。意識が消えても、碧が僕の存在を感じられなくなっても……僕は碧の幸せだけを祈ってる」
「待って、やだ」

 蒼は本気だ。私のもとから去ろうとしている。
 引き留めたくて、慌てて顔を上げた。
 視線の先に彼がいるわけではないのに、反射的にそうしてしまった。

「嫌いな授業、もう代わりに出てあげたりできないけど、ちゃんと自分で受けるんだよ。気が乗らない行事も、杏香に相談して自分で参加してね」
「蒼っ――」
 
 頭のなかに流れ込んでくる彼の声は、私の大好きな、優しくて安心感のある音だ。
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