シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜
 蒼という別の人格が私のなかにいると気付いたのは、小学校高学年のころ。
 シングルマザーの母親が、当時の彼氏を家に連れ込み、母親や私に暴力を振るい始めたときだ。
 
『大丈夫だよ、碧。僕が守ってあげる』

 はっと我に返ると、背中や顔にあざができていた……ということが何度か続いてわかった。
 暴力の間だけ、蒼が私の意識をのっとり、庇ってくれているのだ、と。
 母親も気の強い人なので、DV彼氏とはその後さほど時間を置かずに別れたけれど、それからいやなことや怖いことがあるとすぐ蒼に頼って、彼に対応をお願いしていた――つまり、彼と交代して彼に解決してもらうことがほとんどだった。
 たとえばクラス替え直後のホームルームや、運動音痴な私がもっとも恐れる行事である運動会やスポーツ大会。
 私がつらいと思うことはなんでも交代してくれた。
 目に見えない形で、彼はずっと私の心と身体を守り続けてくれたのだ。
 母親が彼氏の家から帰ってこなくなり、その不安から不登校になった中学二年のころから、蒼とは別の角度から私を気にかけてくれたのが杏香だ。
 そんな杏香にだからこそ、蒼も自分の心の内を素直に打ち明けることができたのかもしれない。

「……碧は今、幸せなんだよね?」

 杏香が私の目をじっと見て、真面目な顔で訊ねた。

「幸せだよ」

 私は淀みなく答える。
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