シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜
「……あたしは部外者だし、偉そうなこと言いたくないけど……そうだね。蒼じゃ碧のこと、幸せにできないと思う」
 
 ちょっと考えるような間のあと、杏香が静かに言った。

「杏香の、はっきり言ってくれるところ、やっぱいいな」

 悲しさはゼロではなかったけれど、「やはりそうか」という納得の気持ちのほうが強かったから、僕はふっと笑った。
 優柔不断なところがある碧には、杏香のような友人は必要だ。

「ありがとう。……おかげで確信が持てた」

 僕は杏香にお礼を言うと、今日、僕が本当に彼女に伝えようとしていた本題に触れる決心を固めた。

「――僕、碧のそばから消えるよ」
「えっ」

 ラメの入ったアイシャドウに縁どられた目が大きく見開かれた。

「消える、って……」
「それしか方法がないんだ。一緒にいたらきっとお互いに忘れられない」
「…………」

 碧が別の男に惹かれていると気付いたときから、考えていた。
 僕がそばにいる限り、彼女は普通の恋愛ができないのだ。ならば離れるしかない。

「……蒼はそれでいいの?」

 黙りこくっていた杏香が、険しい表情で訊ねる。

「大学生活は楽しかったけど、もう未練もないしね」

 たまに顔を出す授業やサークルは、高校時代よりもずっと自由で、楽しいものに感じられた。
 碧もきっとそう思っているだろう。でも、僕にはこれで十分。

「――悔いが残るとするなら、僕がいなくなって碧が傷つくことかな。でもそれも、時間が解決してくれる」

 僕が別れを告げたら、優しい碧は「一緒にいよう」と引き留めてくれるかもしれない。
 だけど、それに応じてしまったら意味がない。
 碧が幸せになるためには僕が大きな障壁となる。
 壁は乗り越えなければいけないのだ。
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